医療保険の支払限度日数は何日がいいの?1入院の考え方とは?
公開日:2022年12月1日
医療保険を選ぶ際、多くの人が迷う保障の1つに「1入院あたりの支払限度日数」があります。入院日数が短期傾向にある近年、支払限度日数は何日を選ぶとよいのかアドバイスします。また、保険会社によって定義が異なる「1入院」の考え方についても解説します。
支払限度日数は60日で足りることが多い
医療保険の入院給付金は、病気やケガの治療を目的に入院した場合、「入院給付金日額×入院日数」が受け取れます。入院日数が長引けば、その分だけ入院給付金が受け取れる計算になりますが、各保険会社は給付金として請求できる入院日数に上限を設定しています。これを「1入院あたりの支払限度日数」といいます。保険会社によっては支払限度日数を複数の選択肢の中から選ぶことができ、30日、40日、60日、120日、180日のうちいくつかを用意しているのが一般的です。では、支払限度日数は何日にするとよいのでしょうか。
入院日数は平均で約16日
近年は入院日数が短期傾向にあり、厚生労働省が発表した『令和2年(2020)病院報告』(表1)によると、令和2年(2020年)の一般病床における平均入院日数は16.5日です。つまり、早期退院を目指している急性期病院では、入院しても2週間程度で退院することになっているといえます。
平均入院日数(※1) | ||
令和2年 (2020) |
令和元年 (2019) |
|
病院の一般病床(※2) | 16.5 | 16.0 |
平均在院日数算出方法:在院患者延数÷{(新入院患者数+退院患者数)÷2}
(※2)一般病床とは病床の種類の1つで、精神病床、感染症病床、結核病床、療養病床以外の病床のこと
出典:厚生労働省「令和2(2020)年 病院報告」をもとに筆者が作成
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/20/dl/09gaikyo02.pdf[PDF:2.97MB]
傷病や年齢によっては入院日数が長くなる
表1はあくまで全ての傷病の平均入院日数です。そこで、厚生労働省が発表した『平成29年(2017)患者調査の概況』をもとに、傷病別の平均入院日数を確認してみましょう(表2)。
傷病 | 全年齢 | 0~14歳 | 15~34歳 | 35~64歳 | 65歳以上 | 75歳以上 |
---|---|---|---|---|---|---|
統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害 | 531.8 | 167.2 | 106.5 | 301.6 | 1210.6 | 1692.2 |
血管性及び詳細不明の認知症 | 349.2 | - | - | 284.1 | 349.8 | 340.0 |
アルツハイマー病 | 252.1 | - | - | 143.0 | 254.9 | 257.1 |
気分[感情]障害(躁うつ病を含む) | 113.9 | 75.7 | 47.1 | 74.9 | 167.0 | 196.0 |
脳血管疾患 | 78.2 | 12.3 | 25.6 | 45.6 | 86.7 | 98.9 |
慢性閉塞性肺疾患 | 61.5 | 13.0 | 7.9 | 26.7 | 64.3 | 74.0 |
結核 | 54.1 | 2.0 | 36.5 | 45.4 | 58.5 | 61.6 |
骨折 | 37.2 | 6.1 | 11.3 | 20.7 | 45.6 | 49.5 |
高血圧性疾患 | 33.7 | 7.7 | 13.6 | 15.3 | 39.5 | 47.8 |
糖尿病 | 33.3 | 10.9 | 13.2 | 16.3 | 45.4 | 62.1 |
筋骨格系及び結合組織の疾患 | 29.4 | 10.4 | 11.5 | 20.4 | 35.3 | 41.6 |
肺炎 | 27.3 | 5.1 | 8.2 | 24.0 | 33.4 | 35.3 |
皮膚及び皮下組織の疾患 | 24.7 | 5.8 | 24.2 | 15.9 | 31.1 | 34.0 |
肝疾患 | 22.9 | 8.8 | 10.3 | 16.5 | 27.7 | 31.9 |
ウイルス性肝炎 | 21.2 | 5.2 | 10.7 | 9.7 | 38.2 | 56.1 |
腎尿路生殖器系の疾患 | 20.8 | 8.2 | 4.7 | 10.2 | 28.5 | 33.1 |
血液及び造血器の疾患並びに免疫機構の障害 | 20.6 | 9.8 | 10.1 | 15.9 | 25.0 | 27.4 |
心疾患(高血圧性のものを除く) | 19.3 | 11.8 | 10.0 | 9.0 | 22.2 | 28.8 |
脂質異常症 | 19.2 | 2.0 | 10.5 | 8.9 | 25.8 | 27.8 |
悪性新生物<腫瘍> | 17.1 | 21.6 | 15.9 | 13.0 | 18.6 | 21.8 |
出典:厚生労働省「平成29年(2017)患者調査」をもとに筆者が作成
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/17/dl/kanja.pdf[PDF:749KB]
これによると、精神疾患に分類される統合失調症や脳血管障害によっておきる認知症、神経系の疾患に分類されるアルツハイマー病などは入院日数が100日を超えることもあり、長ければ1年以上になることがわかります。続いて入院日数が長くなっているのは、脳の血管のトラブル全般を指す脳血管疾患の78.2日ですが、代表的な病気には脳卒中があります。それに続いて入院日数が長いのは、喫煙者やその家族が罹患することの多い慢性閉塞性肺疾患の61.5日です。これは、たばこの煙を長年吸い込むことで、気管支に慢性的な炎症が生じ呼吸機能が低下していく肺の病気です。
さらに、各傷病を年齢階級別にみると、ほとんどの傷病において、年齢階級が上がるにつれ入院日数が長くなっていることがわかります。
この調査結果からいえることは、傷病別・年齢階級別で入院日数が長期になることもありますが、たいていの場合は60日以内であるということです。急性期病院での平均入院日数が約16日であることから、医療保険の支払限度日数を30日や40日にする選択肢もあります。しかし、表2で確認したように、それでは心もとないといえます。とはいえ、支払限度日数が長くなればなるほど、医療保険の保険料は高くなります。保険料を抑えつつ十分な保障を望む人は、支払限度日数を60日にするとよいでしょう。
医療保険では「1入院」について理解しておこう
各保険会社のパンフレットや契約のしおり、約款を見ると、入院給付金の説明欄に「1入院の支払限度日数○日」や「支払限度日数は1回の入院について○日」といった記載があります。医療保険の入院給付金を請求する際、トラブルになりやすいのが「1入院」の考え方です。では、この「1入院」や「1回の入院」とはどういう意味なのでしょうか。ここでは、保険会社の商品によって定義が異なる「1入院」について解説します。
「1入院」の定義は2パターンある
医療保険では、退院日の翌日から一定の期間内(通常180日以内)に再入院した場合、継続した1回の入院とみなします。これが「1入院」の基本的な定義です。しかし、この定義は再入院の原因によって、下記のように2パターンに大別でき、各保険会社はどちらかを採用しています。
(A)180日以内の再入院は、退院前と同一あるいは医学上重要な関連がある場合は1入院とみなす
(B)180日以内の再入院は、原因を問わず(退院前と同一あるいは医学上重要な関連があるか否かにかかわらず)1入院とみなす
つまり、(A)の医療保険であれば、180日以内の再入院が退院前と同一あるいは医学上重要な関連がない場合、別の入院として取り扱われますが、(B)であれば、どのような原因で再入院しても、1入院として取り扱われるということです。なお、保険会社によっては、医療保険の入院給付金が、ケガによる入院で受け取れる災害入院給付金と、病気による入院で受け取れる疾病入院給付金の2本立てになっています。このような設定になっている場合は、ケガで入院し退院した後、180日以内に病気で再入院したり、反対に病気で入院し退院した後、180日以内にケガで再入院したりしても、別の入院として取り扱われるのが一般的です。
では、1入院の定義が異なることで、入院給付金を請求するときにどのような違いがあるのか事例をみておきましょう。
【事例】
- 1入院の支払限度日数が60日の商品に加入中
- 40日入院した後に退院したが、その翌日から180日以内に前回とは別の原因で30日入院した
このように、別入院となるのか1入院となるのかによって、受け取れる入院給付金の日数に違いが出てくるのです。退院日の翌日から180日以内に再入院する場合、事例のように全く別の原因で再入院することよりも、同じ疾病あるいは医学上関連のある疾病で再入院することのほうが可能性は高いでしょう。そのため、1入院の定義に大きくこだわるよりも、自分が必要とする保障と保険料のバランスを考えて医療保険を選ぶようにしましょう。ただし、給付金を請求するときのことも考えて、入院した場合の1入院の取り扱いについて確認しておくことをおすすめします。
入院が長引く生活習慣病への備え方
医療保険に加入する場合、1入院あたり支払限度日数が60日であれば、たいていの傷病に備えられることがわかりました。しかしながら、表2の結果をみると、生活習慣や遺伝、外部環境などが要因となって発症する生活習慣病(がん・脳血管疾患・高血圧性疾患・心疾患・糖尿病・慢性閉塞性肺疾患)の多くは、年齢が上がるにつれ入院日数が長くなる傾向があり、60日では足りないことも考えられます。
生活習慣病による入院は支払限度日数が長くなるタイプを選ぶのも1つの選択肢
医療保険のなかには、生活習慣病で入院した場合に、1入院の支払限度日数が120日などに拡大したり無制限になったりするタイプを選べるものがあります。例えば、三大疾病である「がん・心疾患・脳血管疾患」のみ支払限度日数が無制限になるものや、この3つに「糖尿病・高血圧性疾患・腎疾患・肝疾患」を加えた七大疾病の支払限度日数が無制限になるもの、さらに七大疾病に「膵(すい)疾患」を加えた八大疾病の支払限度日数が無制限になるものなどがあります。
ここで注意したいのは、保険会社ごとに保障の対象となる生活習慣病の種類が異なることです。例えば、肝疾患でも肝硬変のみを保障の対象とするものや、腎疾患のうち一部の疾病を対象外としているものなどがあります。保険会社は保障の対象とする疾病の種類を約款で詳細に規定しているので、気になる疾病がある場合は事前に確認しておきましょう。
保険会社によって保障される疾病の種類に違いはありますが、生活習慣病による長期の入院や再入院が心配な人は、このような手厚い医療保険を検討して、安心できる保障を確保するとよいでしょう。ただし、保障される生活習慣病の種類が増えるほど、保険料は少しずつ高くなるため、備えておきたい疾病をよく考えて、どのタイプにするかを決めましょう。
- ※この記事の情報は2022年6月24日時点
ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級FP技能士、住宅ローンアドバイザー、定年力アドバイザー、相続手続カウンセラー
中山弘恵(なかやまひろえ)
生活に関わるお金や制度をテーマにした講師業務、執筆業務、個別相談業務に従事。「わかりやすく丁寧なセミナー」「ストレスなく読み進められるわかりやすい文章」「安心しながら気軽に話せる相談相手」として定評がある。