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不妊治療は公的保険だけで大丈夫?妊活前に考えたい医療保険

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公開日:2022年12月1日

不妊治療に対して、「お金がかかる」イメージを持っていませんか?赤ちゃんが欲しい方が「不妊治療で数百万かかった!」といった話などを耳にすると、不安に思うのは自然なことです。この記事では、不妊治療にかかる費用の目安や、妊活前から考えておきたい保険のことなど、妊活から出産までにかかるお金の備え方についてご紹介します。

約3組に1組は不妊で悩む!?

不妊治療と自分は関係ないと思っているかもしれません。しかし、決して他人事ではない可能性があります。

国立社会保障・人口問題研究所の「2015年社会保障・人口問題基本調査」によると、約3組に1組の夫婦は、「不妊を心配したことがある」との結果が出ています。また、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は、なんと約5.5組に1組もいます。

特に30代の夫婦で、不妊を心配したり病院にかかったりする割合が高くなっています。ただ、20代であっても、不妊に悩む夫婦が約30%もいますし、実際に約12%の夫婦が検査や治療を受けた経験があるようです。

たとえ若い夫婦であっても、不妊治療を受けることは決して珍しくはないということが分かります。

不妊治療にかかるお金の目安は?

不妊治療は、2022年4月から、健康保険の対象となる治療の範囲が広がったことで、費用がぐっと抑えやすくなりました。いくらかかるかは、治療の内容や状況によって大きく異なります。

不妊治療はステップが進むほど高くなる

不妊治療は、必ずしも高額なお金がかかるわけではありません。治療のステップが進んで高度な治療を受け始めたり治療期間が長くなることで、総額が大きくなることがあります。

不妊治療は、まず検査で原因を探ってから、治療を段階的に進めるのが一般的です。治療法は「タイミング法」から始め、数カ月間うまくいかない場合に、「人工授精」の治療にかかります。それでもうまくいかない場合に、「体外受精」に進むのが一般的です。

費用の目安は、次の表の通りです。保険診療の範囲が広がり、人工授精までなら1万円前後で治療可能になりました。以前なら40万円以上かかっていた体外受精も、約10万円前後から受けられるようになったのです。

<不妊治療のステップと費用の目安>
段階 治療法 内容 費用(自己負担額)目安 ※
ステップ1 検査 血液検査など、不妊の原因を知るために行う 1検査につき数百円~1万円程度(合計で数万円)
ステップ2 タイミング法 排卵日を予測して自然妊娠の可能性を高める治療法 合計で5,000円前後
ステップ3 人工授精 人工的に精子を子宮に送る治療法 合計で1万円前後
ステップ4 体外受精 体外で受精させた受精卵を子宮内に入れる治療法 合計で10~20万円前後

資料:執筆者作成

※上記は1周期あたりにかかる費用で、あくまでも目安です。(健康保険適用により自己負担3割となる場合)
※体外受精が保険診療になるには、年齢や回数制限などの要件を満たす必要があります。

高額療養費で治療費の一部が返ってくることも!

治療費が高くなったときは、「高額療養費制度」によって、負担が軽くなることがあります。

高額療養費制度とは、入院や外来診療でかかった1カ月の医療費の自己負担額が、規定の上限額を超えた分が、後から払い戻される制度です。上限額は年齢や所得水準によって異なります。例えば、70歳未満で年収370万円から770万円程度の人なら、上限額は約8~9万円です。

また、健康保険組合等によっては、独自の「付加給付」があり、上限額が2~3万円程度に設定されていることがあります。つまり、付加給付がある人なら、自己負担額は大きく減る可能性が高いのです!

医療費控除を使うと税金が減る

1年間で支払った医療費が多いときは、「医療費控除」で所得税や住民税を減税できます。医療費控除が使えるのは、自分または生計が同じ家族のために支払った1年間の医療費が10万円(総所得金額等が200万以下の人はその5%)を超えたときです。

医療費控除は、保険診療以外の治療費も対象になります。10万円(原則)を超えた分が、すべて減税になるわけではありませんが、税金が高い人ほど減税しやすい仕組みです。確定申告が必要なため、不妊治療を始める前からやり方を確認しておき、ぜひ活用しましょう!

このように、健康保険の適用範囲が広がったことにより、以前に比べて治療費が抑えやすくなりました。しかし、高度な治療を複数回行えば、100万円以上かかることもありえます。将来、不妊治療をする可能性があるなら、お金の準備を始めておくと安心です。

不妊治療は民間の医療保険で備えられる?

不妊治療のお金に備える方法のひとつに、「民間の保険に加入すること」が挙げられます。2022年4月から不妊治療の保険適用範囲が広がったことで、民間の医療保険から手術給付金が受け取れるケースが増えているようです。そのため、これまでに比べて、医療保険に加入することで不妊治療の治療費に備えやすくなったのです。

不妊治療に備えられる医療保険の内容は?

不妊治療に備えられる保険商品には、人工授精、体外受精、顕微授精、胚移植などを行ったときに給付金が受け取れるものがあります。

各社の給付条件や給付回数上限はバラバラで、保険商品ごとに約款で詳しく定められています。例えば、人工授精や体外受精を行うことで、女性側が医療保険から手術給付金を受け取れるケースなどがあります。また、男性が不妊治療の手術を受けたときには、男性側が医療保険から手術給付金を受け取れることなどがあります。

ほかにも、医療保険に特約を付けることで、体外受精をすると、「定額で数万円が治療を行うたびに複数回受け取れる」という商品もあれば、「入院給付金の10倍の金額を一度だけ支給する」といったように、より不妊治療の治療費に手厚く備えられる商品もあります。

医療保険から給付金を受け取れたら、体外受精をしたときの自己負担を軽くできます。どのくらいの給付金が何回受け取れるのかは保険商品によって大きく異なるので、複数の保険商品を比較して、自分の希望に合った商品を選ぶと良いでしょう。

保険契約後一定期間の治療は保障対象外なことも!?

不妊治療の保障を得るために医療保険に加入する場合は、「保障が開始される日」にご注意ください。なぜなら、不妊治療の保障は、契約したらすぐ保障の対象となる商品もある一方で、「保障の開始日から2年経過後の治療が対象」など、保険に加入してすぐの時期は保障が受けられないことがあるからです。

そのため、医療保険で不妊治療に備えたい方は、保障が開始される日までの期間(=免責期間)の有無を必ずチェックしてから加入するようにしましょう。

不妊治療の保障だけでなく医療保障にも注目しよう

医療保険は、さまざまな病気やケガによる入院費や手術費に備えることができる保険です。不妊治療を受けたときに給付金が受け取れるかどうかを確認しつつ、不妊治療以外の保障内容にも注目して加入する商品を選びましょう。

妊娠~出産時は、入院や手術のリスクが高まる時期です。妊娠の合併症による入院や、帝王切開による手術などが起こりえます。なかには、「切迫早産で数カ月入院した」という人もいます。

このような予想外の出費が発生したときに、医療保険が役立ちます。医療保険は、保険診療とならない正常妊娠や正常分娩は、保障対象外です。しかし、妊娠の合併症や切迫早産などによる入院や、帝王切開の手術など、保険診療となる場合には入院給付金や手術給付金が受け取れます。

妊活~出産に備えた保険の選び方

すでに妊活中や不妊治療中の場合には、受けられる保障が限られてきます。そのため、自分の状況に合わせて保険商品を選ぶことが大切です。

妊活前~不妊治療前の場合

妊活や不妊治療を始めると、通常の医療保険は加入しにくくなります。そのため、妊活を意識する前から保険に加入しておくのがおすすめです。まだ妊活を始めるまで時間がある人ほど、不妊治療の保障が受けられる医療保険に加入できる可能性が高く、不妊治療から出産までの治療費まで、幅広く備えることができます。

2022年4月から健康保険が適用される不妊治療の範囲が広がったことで、不妊治療に備えれられる医療保険は増えています。これから医療保険に加入する人は、どんな不妊治療の際に給付金が受け取れるのか、複数の保険商品を比較しながら選ぶようにしましょう。すでに加入中の医療保険がある人は、まずは不妊治療の際に手術給付金などが出るかを確認してみましょう。場合によっては、不妊治療が保障される保険に乗り換えるのも選択肢のひとつとなります。

もし不妊治療に備えることにそこまでこだわりがないという場合でも、妊娠中の入院や、出産トラブル(帝王切開等)に備えることを目的に、医療保険は検討しておくのがおすすめです。医療保険には、妊娠・出産時の入院・手術の保障が手厚くなる女性向けの商品も多数用意されていますので、そういった商品も見てみると良いでしょう。

すでに不妊治療中、妊婦の場合

すでに不妊治療のために通院している場合や、妊娠が分かっている状態から医療保険に加入する場合は、選択肢が限られることを認識して、保険を選びましょう。

不妊治療で通院中や妊娠中の場合、医療保険の加入自体ができないことも珍しくありません。加入できても、「子宮が部位不担保となる」「妊娠・出産関連の特定疾病が不担保になる」など、妊娠に関する保障は対象外となることが多いです。そのため、妊娠以外の病気・ケガや、次回以降の妊娠に備えることを目的に、医療保険の加入を検討することになります。

しかしなかには、正常妊娠20週前後までなら、保険に加入でき、現在の妊娠中の入院や手術もある程度保障してくれる商品もあります。このような商品を検討するのも良いでしょう。

不妊治療には保険・貯金・助成金などで備えよう

治療費が高額になることがある不妊治療は、妊活前から医療保険に加入して備えておくのが理想的です。ただし、加入したいと思ったときにはすでに欲しい保障がつけられないことも、残念ながらありえます。限られた選択肢のなかからベストなものを選択できるよう、早いタイミングから色々な商品を検討することが大切です。

ほかにも、家計を見直して貯蓄を増やして備えることも有効です。また、不妊治療や妊娠・出産中の入院などによる出費は、自治体で独自の補助金や助成金を出していることもあります。妊活を考え始めた人や、すでに妊活している人は、積極的に情報収集をしてみてください。

  • この記事の情報は2022年6月28日時点
プロフィール

ファイナンシャル・プランナー(AFP®)。FP事務所マネセラ代表。(https://manesera.com/

張替 愛(はりかえ あい)

「ひとつひとつの家庭にとっての最善策」を探すことを大切に、金融商品を販売せずに、年間100回近く家計相談を行う。専門分野は教育費・住宅購入・資産運用・ママのキャリアなど。コラム執筆や監修、オンラインマネー講座などでも活躍。2児の母でもある。
著書『~共働き800万円以下の夫婦でもハッピーライフ~プチ贅沢を楽しみながらムリなく資産を増やす』(ビジネス教育出版社)

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