シングルマザー・シングルファザーに必要な保障は?家計の負担を抑える保険選びのコツ
公開日:2024年6月28日
1人で子どもを育てるシングルマザーやシングルファザーは、ケガや病気、死亡などの万一の時に、人一倍「保険」が役立つでしょう。しかし、手厚すぎる保険が家計を圧迫する事態は避けたいものです。そこで、頼りになる公的保障制度や、お手頃な保険料でもしっかり備えられる保険を選ぶためのポイントを紹介します。
シングルマザー・シングルファザーに死亡保障が必要なワケ
誰にでも、思いがけない事故や病気で亡くなる可能性があります。配偶者がいないシングルマザー・シングルファザーも例外ではありません。もしものときに子どもが困窮しないためにはどんなお金が必要か、確認していきましょう。
子どもが自立するまでの生活費
子どもが自立するまでは、生活費が必要になります。子どもが1人暮らしをするのか、住む場所はあるのか、子どもの世話ができる親族がいるかなどによって必要な金額は大きく変わります。あらかじめ親族とよく話し合っておくことが大切です。
その際、シングルマザー・シングルファザーが受け取れる児童扶養手当や、遺族年金のおおまかな金額、住宅ローンの団体信用生命保険の有無などを確認しておくと良いでしょう。高校卒業後は使える公的保障が減るため、大学進学を考えている家庭は特にたくさんの生活費が必要です。遺された親族に負担をかけないためにも、公的保障だけでは足りない分の生活費を死亡保険などで準備しておきましょう。
<万一の時に子どもの生活費を援助する公的制度など>
制度 |
内容 |
児童手当 |
子育て家庭向けの手当。中学校卒業までの児童を養育している方に支給される。 |
児童扶養手当 |
ひとり親世帯向けの手当。所得が一定以下の場合、18歳になった最初の3月末まで受け取ることができる手当。父母の代わりに子どもを養育している方でも受給できる。 |
扶養控除 |
16歳以上の親族を扶養している場合に、扶養している人の税負担が軽くできる制度。 |
遺族年金 |
国民年金に加入している方は、遺族基礎年金。厚生年金に加入している方は、遺族基礎年金に加えて遺族厚生年金が支給される。 |
住宅ローンの団体信用生命保険 |
住宅ローンの契約者が亡くなった場合、住宅ローンの残高がゼロになる保険。 |
自治体独自の子育て援助制度 |
自治体によっては、子どもの医療費を助成する制度や、ひとり親家庭向けの住宅手当制度、給食費の補助などがある。 |
資料:執筆者作成
子どもの教育費
生活費に加えて、子どもの教育費も備えておく必要があります。文部科学省「令和3年度子供の学習費調査」によると、幼稚園から高校卒業までの15年間にかかる学習費の総額(学校の授業料に加え、教材費や給食費、塾や習い事の費用も含む)は、すべて公立のケースで約574万円、幼稚園と高校が私立のケースで約781万円とあります。単純にひと月に平均して計算すると、およそ月3万円~4万円強の教育費がかかるということです。
さらに、大学進学時はまとまった学費がいります。日本学生支援機構「令和2年度学生生活調査報告」によると、大学にかかる学費(1年あたり)は、国立でも約59万円で、私立だと約131万円です。これに加えて、大学の受験料や入学金も必要となります。国立大学は競争率が高いため、私立大学への進学を想定してお金を準備しておくと安心です。
教育費には公的支援制度が数多くあるため、大幅に負担を減らせることも珍しくありません。ただし、所得制限のある制度が多いため、親が亡くなった後に子どもを引き取ってくれる人の所得状況によって受けられる制度が変わります。そのため、引き取り手の状況が不明確な場合は、手厚い支援は受けられない前提で死亡保障を準備しておくのがおすすめです。
<子どもの教育を支援する制度の例>
時期 |
制度 |
概要 |
幼児 |
幼児教育・保育の無償化 |
幼稚園・保育園などの利用料が無料または一部補助される制度。3歳から5歳が対象(住民税非課税世帯の場合、0歳~2歳も対象)。 |
小学生・中学生 |
就学援助制度 |
経済的理由で就学が難しい子どもを対象に、学用品や修学旅行費などについて支援が受けられる制度。 |
高校 |
高等学校等就学支援金制度 |
高校などの授業料が実質無料または軽減される制度。 |
高校生等奨学給付金 |
高校生などがいる低所得世帯を対象に、教科書や教材等のための資金援助が受けられる制度 |
|
大学等 |
高等教育の修学支援新制度 |
一定以下の経済状況にある家庭において本人に学ぶ意思がある場合、給付型奨学金や授業料等の免除が受けられる制度。 |
資料:執筆者作成
葬儀費用
ほかにも、亡くなった後にすぐ必要になるお金として葬儀費用が挙げられます。金額は葬儀内容によって左右しますが、およそ50万円~200万円が目安となります。万一の際に葬儀を取り仕切ってくれる方のために、請求してから一週間程で保険金を受け取ることができる死亡保険で備えておくと万全です。
シングルマザー・シングルファザーの死亡保険選びのポイント
親が亡くなった際に公的保障でカバーしきれない子どもの生活費や教育費は、死亡保険に加入することで備えられます。家計を圧迫しない死亡保険の選び方のコツや、保険金の受取人を設定する時の注意点を押さえておきましょう。
死亡保険の種類と選び方
万一のときの生活費・教育費は、死亡時や高度障害時に高額な保険金を受け取ることができる「収入保障保険」や「定期保険」で備えることができます。定期保険は、契約から年数が経っても一定金額の保険金が受け取れます。それに対して収入保障保険は、年数が経つに連れて受け取れる保険金総額が減っていきます。保障が減っていく分、定期保険に比べて保険料がお手頃です。
<収入保障保険と定期預金で受け取れる保険金のイメージ>
資料:執筆者作成
子どもが小さい時ほど自立するまでに必要な生活費や教育費が多くなるため、必要な死亡保障額も大きくなります。逆に言えば、子どもが成長するとともに必要な保障額は減っていきます。そのため、年数経過とともに保障額が減る収入保障保険を活用すると、保険料を抑えながら合理的に死亡リスクに備えることができます。なお、解約返戻金がある「貯蓄タイプ」の保険は保険料が高額になるため、解約返戻金がない「掛け捨てタイプ」がおすすめです。
保険金の受取人を決める時の注意点
死亡保険金の受取人は、万一の時に子どもを引き取ってくれる方を指定しておくと良いでしょう。子どもが小さい場合でも、保険金の受け取り手続きがスムーズに進められます。
引き取る人が分からない場合は、子どもを受取人に指定することになるでしょう。ただし、未成年の子どもが保険金を受け取る場合は、その子の親権者か未成年後見人(親代わりになる人)が手続きをすることになります。未成年後見人は自分が意図しない人に決まることもあるのでご注意ください。
ケガや病気による医療費や収入減少へ備え方は?
シングルマザー・シングルファザーに必要なのは、死亡保障だけではありません。ケガや病気で入院や手術が必要になれば医療費が必要ですし、仕事ができない状況だと収入が減って家計が悪化してしまいます。こうした事態に備えて、「医療保障」や「就業不能保障」も準備しておきましょう。
ケガや病気の際に役立つ公的制度
ケガや病気の時には、公的制度が使えることがあります。まずはこうした公的制度の存在を知っておくことが、万一の備えとなります。例えば医療費は、「高額療養費制度」や「ひとり親向けの医療費助成制度」で負担が抑えられることがありますし、もし病気などで障害が残れば「障害年金」が受け取れる可能性があります。また、勤務先の社会保険に加入して働く人なら、しばらく働けない期間があっても、「傷病手当金」によってある程度は収入を確保できます。
<病気やケガの時に役立つ公的保障の例>
制度 |
概要 |
高額療養費制度 |
病院や薬局の窓口で支払った医療費がひと月で一定額を超えたとき、その超えた額が戻ってくる。所得が高い人ほど上限額が高い。 |
傷病手当金 |
病気やケガで会社等を休んだことで十分な報酬が受けられない時、休業前の収入の約3分の2の手当が受け取れる。 |
障害年金 |
病気や障害によって日常生活や仕事に支障がある人が受け取れる年金。厚生年金加入者だと、障害基礎年金に加えて障害厚生年金がある。 |
自治体の補助 |
ひとり親家庭等医療費助成制度(所得制限あり)に該当すると、医療費の助成が受けられる。 |
資料:執筆者作成
公的保障で足りない分は、民間の保険で備えておきましょう。特に、傷病手当金や厚生障害年金がない自営業のシングルマザー・シングルファザーは、保険の必要性が高いと言えます。
ケガや病気に備える保険は?
病気やケガによる医療費や収入減少は、「医療保険」「がん保険」「就業不能保険」などで備えることができます。
・医療保険
主に病気やケガで、入院や手術をしたときに給付金を受け取れる保険です。公的保障のおかげで医療費自体はほとんどかからない方でも、休業によるちょっとした収入減に備えたい場合などに役立ちます。
・がん保険
がんと診断されたときやがんの治療を受けた時に給付金を受け取れる保険です。入院や手術を伴わないがん治療や、健康保険対象外の出費(抗がん剤の影響による脱毛を隠すためのウィッグ購入や、乳房切除手術後の再建手術など)にも備えられる点がメリットです。
・就業不能保険
大きな病気やケガによる長期間の収入減に備えることができる保険です。一定の障害状態や介護が必要な状態になったときなどに保険金を受け取れます。
保険料を抑えるポイント
シングルマザーやシングルファザーが持っておきたい保障はたくさんありますが、必ずしも別々の保険に入る必要はありません。例えば、「医療保険+がん特約」「収入保障保険+就業不能保障特約」など、「特約」の形で保障を組み合わせると、保険料を抑えつつ、幅広い保障を持つことができます。
また、健康な方ほど保険料が安くなる商品もあります。タバコを吸わない人や健康診断の数値に問題がない人などは、健康な人がお得になる保険商品を選ぶと良いでしょう。
シングルマザーやシングルファザーは、万一に備えて死亡保障を持つことに加えて、医療保障や就業不能保障も持っておくと安心です。保険を選ぶ際は、「自分が使える公的保障を把握して保障を手厚くしすぎない」「特約をうまく使って幅広く保障を持つ」など、保険料を抑える工夫をしながら保険を選ぶようにしましょう。
- ※この記事の情報は2023年11月7日時点
ファイナンシャル・プランナー(AFPⓇ)。FP事務所マネセラ代表。(https://manesera.com/)
張替 愛(はりかえ あい)
「ひとつひとつの家庭にとっての最善策」を探すことを大切に、金融商品を販売せずに、年間100回近く家計相談を行う。専門分野は教育費・住宅購入・資産運用・ママのキャリアなど。コラム執筆や監修、オンラインマネー講座などでも活躍。2児の母でもある。
著書『~共働き800万円以下の夫婦でもハッピーライフ~プチ贅沢を楽しみながらムリなく資産を増やす』(ビジネス教育出版社)