フリーランスという働き方。もしもの備えは大丈夫?
公開日:2024年6月28日
フリーランスは、会社員に比べて社会保険の保障内容が薄くなっています。そのため、病気やケガで働けなくなったり、亡くなってしまったりしたときの備えは十分にしておきたいものです。今回は、フリーランスが加入する社会保険の保障内容を解説するとともに、社会保険だけでは不足する場合の備え方について紹介します。
フリーランスと会社員の社会保険の違い
社会保険には、公的医療保険、公的介護保険、公的年金保険、雇用保険、労働者災害補償保険(労災保険)の5つがあり、職業等によって加入する社会保険は異なります。フリーランスと会社員(ここでは正社員を想定)ではどのような違いがあるのか、それぞれの種類について見ていきます。
公的医療保険
フリーランスが加入する国民健康保険には、会社員が加入する健康保険と同様に、医療機関の窓口での支払いが3割となる「療養の給付」や1ヵ月の医療費が高額になった場合に超過分が戻ってくる「高額療養費」があります(図表1)。しかし、国民健康保険には、「傷病手当金」と「出産手当金」がありません。健康保険の傷病手当金は、病気やケガで会社を休んだ日が連続して3日間あると、4日目以降の休んだ日に対して支給されます。支給額は、会社を休む前の収入の3分の2程度で、支給期間は通算して1年6ヵ月です。会社員であれば、傷病手当金で当面の減収をある程度は補うことができますが、国民健康保険には傷病手当金がないため、職種によっては、働けなくなった時点で即座に収入が途絶えてしまう可能性があります。
また、会社員の女性であれば、出産の前後に会社を休んでも、休む前の収入の3分の2程度の支給額が、出産手当金として健康保険から支給されます。しかし、フリーランスが加入する国民健康保険には出産手当金がありません。
<図表1>公的医療保険の違い
公的介護保険
介護保険とは、加齢に伴う身体の衰えや病気、ケガなどが理由で介護が必要になった場合に、日常生活において他人のサポートなどが受けられる保険制度です。フリーランスも会社員も40歳になると保険料を払いますが、給付内容に違いはありません。
公的年金保険
日本の年金保険は2階建てになっていて、20歳以上60歳未満のすべての国民は、1階部分の国民年金(基礎年金)に加入します。したがって、フリーランスも会社員も国民年金に加入します。さらに、会社員は2階部分の厚生年金にも加入します。年金の給付には、「老齢年金」「障害年金」「遺族年金」の3種類がありますが(図表2)、フリーランスが受け取れるのは基礎年金のみとなっています。つまり、高齢になったとき、労働や日常生活に制限を受けるような障害状態になったとき、亡くなったときのいずれの場合も、フリーランスは会社員に比べて保障額が少なくなります。
<図表2>公的年金保険の給付
※一定の要件を満たすと、65歳になるまでの間、特別支給の老齢厚生年金を受け取れる
雇用保険
失業・育児・家族の介護などで収入が減少したときに、それを補う役割をもっているのが雇用保険です。労働者を雇用すると強制的に適用される保険のため、会社員は加入の対象となります。一方で、フリーランスは企業などに雇用されていないため加入できません。つまり、フリーランスは仕事がなくなり失業状態になったとしても、保障はありません。
労災保険
労働者が通勤途中や仕事中に病気やケガをしたとき、障害状態になったとき、死亡したときに給付を行うのが労災保険です。加入の対象は労働者のため会社員は加入しますが、フリーランスは原則として加入できません。ただし、一部の職種ではフリーランスでも労災保険に特別に加入できます。
働けなくなった時の公的保障と生活への影響
フリーランスと会社員の社会保険の違いを確認したところで、今度はフリーランスが病気やケガで働けなくなったときの公的保障と、収入の減少による生活への影響について見てみましょう。
働けない期間が長期にならない場合
入院・手術が必要な病気やケガでも、1ヵ月程度で仕事に復帰できる場合は、国民健康保険の療養の給付により、医療機関での自己負担額は3割負担ですみます。医療費が高額になった場合でも、高額療養費制度があるため、それほど大きな負担にはなりません。
例えば、月初めから3週間入院し、その後は退院して1週間の自宅療養をしたのち仕事に完全復帰できたとします。医療費の自己負担額が30万円だった場合、フリーランスの所得が210万円超600万円以下であれば、高額療養費制度から約21万円が戻ってくるので、最終的な自己負担額は約9万円となります。これとは別に、入院中の食事代や人によっては差額ベッド代などの費用がかかります。フリーランスには傷病手当金がないため、休業した途端に収入がゼロになった場合は、仕事に復帰するまで無収入の状態が続きますが、この期間も生活費はかかることになります。
働けない期間が長期になる場合
思わぬ重度の病気やケガで働けない期間が長期になることや、入院期間は短期間であっても、以前のように働けなくなることもあります。
例えば、重い病気に罹り、入院・手術をしても状態がよくならず、働くことも日常生活を送ることにも著しい制限がかかり、初めて病院にかかった日から1年6ヵ月後に障害等級2級が認定されたとします。医療費については、先ほどと同じく国民健康保険から療養の給付や高額療養費制度がありますが、傷病手当金はありません。そのため、働けない期間が長くなるほど、貯蓄を崩しながらの生活となるので、経済的に困窮することもあり得ます。そして、1年6ヵ月を過ぎると、ようやく障害基礎年金が支給されます(図表3)。
<図表3>働けない期間が長期になった場合のイメージ
障害等級2級の認定が下りたとしても、1ヵ月の支給額は約6.6万円です。仮に、より重い障害等級1級に該当したとしても、1ヵ月の支給額は約8.2万円です(子どもがいれば加算額あり※)。障害基礎年金が支給される場合でも、この金額だけで生活するのはかなり厳しいでしょう。
※「子」とは、「18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子」もしくは「20歳未満で障害等級1級または2級の障害者」のこと。子の加算額は、第1子・第2子は年額約22.9万円、 第3子以降は年額約7.6万円
亡くなった時の公的保障と生活への影響
次に、フリーランスとして働いていた人が亡くなった場合の公的保障と生活への影響について見てみましょう。フリーランスが亡くなった場合は、年金保険の遺族給付として、遺族基礎年金が支給されます(図表4)。ただし、遺族基礎年金の支給は、亡くなったフリーランスに生計を維持されていた「子のいる配偶者」または「子」に限定されています。独身の場合や結婚していても子どもがいない場合は、遺族基礎年金の給付はありません。
<図表4>遺族基礎年金を受け取れる場合のイメージ
遺族基礎年金の支給額は、次のとおりです。
配偶者と子1人 | 配偶者と子2人 | 配偶者と子3人 |
年額 約102万円 | 年額 約125万円 | 年額 約133万円 |
月額 約8.5万円 | 月額 約10.4万円 | 月額 約11万円 |
4人目以降の子については年額約7.6万円を加算する
仮に、亡くなったフリーランスに配偶者と子どもが1人いた場合、残された家族は遺族基礎年金を月額で約8.5万円受け取れますが、この金額だけで生活するのはかなり難しいといえます。
「働けない」「万が一」への備え方
以上のことから、フリーランスは国民健康保険に加入するものの、傷病手当金と出産手当金がないことや、年金保険の給付が基礎年金のみであること、雇用保険、労災保険に加入できないことから、業務上・業務外での保障を自助努力で補う必要があります。
ここでは、フリーランスのための備え方について紹介します。
優先するのは貯金、次に民間の保険を検討
(1)働けなくなるリスクへの備え
働けなくなるリスクへの備えとしては、まずは少なくとも1年分の生活費を賄える貯金をしましょう。そのくらいの貯金があると、無収入の状態が6ヵ月間ほど続いたとしても、生活を支えることや、その後の働き方・過ごし方を考える際に、経済的にも心にもゆとりがもてます。そのうえで、貯金は継続しながら、働けない状態が長期にわたる可能性も視野に入れて、民間の保険への加入を検討しましょう。
ケガや病気で働けなくなったときに保険金が受け取れる民間の保険には、就業不能保険があります。最近では、収入保障保険に特則をつけることで、自分自身の生活保障として保険金が受け取れるものもあります。
貯金額が少ない人は、たとえ短期間の入院であっても、収入が途絶えてしまうと、たちまち生活が困難になるので、最低限の治療費や生活費を補えるような民間の保険への加入も検討しましょう。入院中の医療費や減収の補完に適した保険には医療保険があります。
(2)亡くなるリスクへの備え
亡くなるリスクへの備え方は、遺族の保障がどの程度必要かによって準備方法が異なります。生活に困る遺族がいなければ、葬儀代に充てられる貯金があれば十分でしょう。しかし、結婚していて配偶者に十分な収入がない場合や子どもの教育費が必要な場合には、貯金や遺族基礎年金だけでは足りない金額を民間の保険で準備するとよいでしょう。死亡保障のある保険には、収入保障保険や定期保険がありますが、保険金を毎月年金で受け取ることや、一時金で受け取ること、一時金と年金を併用することが可能な収入保障保険であれば、ライフスタイルに合わせて柔軟な選択ができます。
公的保障が少なく経済的なリスクが大きいフリーランスは、貯金と民間の保険で計画的に備えて、安心して仕事に打ち込める環境を作りましょう。
- ※この記事の情報は2023年10月11日時点
(ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級FP技能士、住宅ローンアドバイザー、定年力アドバイザー、相続手続カウンセラー)
中山弘恵(なかやまひろえ)
生活に関わるお金や制度をテーマにした講師業務、執筆業務、個別相談業務に従事。「わかりやすく丁寧なセミナー」「ストレスなく読み進められるわかりやすい文章」「安心しながら気軽に話せる相談相手」として定評がある。