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働けないリスクに備えよう!役立つ公的保障や就業不能保険の内容は?

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公開日:2024年6月28日

病気リスクや死亡リスクについて考えたことはあっても、「働けないリスク」を想像したことがある人は少ないのではないでしょうか。もしも働くことが難しくなった場合でも、困らずに生活できるよう、役立つ公的保障制度の存在や、民間保険である就業不能保険などを使った備え方を知っておきましょう。

ケガや病気で働けない時、頼りにできる公的保障は?

もし病気やケガで働くのが難しい状態になったら、収入が減って生活に困ることになります。そんな時に頼りになるのが公的保障です。働けない時には、「傷病手当金」や「障害年金」といった制度が使える可能性があります。ただ、その保障内容は現在の働き方次第で大きく異なるため、自分自身はどんな保障を受けられるのかを知っておくことが大切です。

会社員や公務員、パート(扶養外)の保障 

働くことが難しくなった場合、まずは「有給休暇」を使って仕事を休むのが一般的です。有給休暇で足りる休業であれば、ボーナスや昇給には影響があるかもしれませんが、基本的な給料は満額もらうことができます。

有給休暇を使い果たして給料の支払いが止まってしまった後は、健康保険から支給される「傷病手当金」が収入減を補填してくれます。傷病手当金は、病気やケガで連続して3日間休んだ後、4日目以降で仕事に就けなかった日に対して、ボーナス(年3回以下のもの)を除く給料のおよそ3分の2の金額が支給される制度です。最長で通算16カ月まで支給されます。

また、病気やケガの初診日から16カ月経過したときに障害等級1級~3級に該当した場合は、「障害年金」を受け取ることができます。障害年金でもらえる金額は、働いていた時の年収や、障害の重さ、子供の人数などにより大きく異なります。障害の程度が軽い場合は、一時金で約120万円以上。年金でもらえる場合は、年収400万円前後の人の場合で、およそ年間60万円~230万円といった金額がおおまかな目安となります。

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                                          資料:執筆者作成

このように、会社員や公務員であれば複数の保障があるため、休業時でもある程度の収入減は補填することができます。しかし、たとえ傷病手当金がもらえても、収入のうちボーナスが占める割合が高い人などは大きく収入が減ってしまうことがあります。また、障害年金は受給要件を満たすほどの障がいがある状態でないと受け取ることができません。もらえたとしても、現在と同じ生活を続けられるほど多い金額になることは期待しないほうが良いでしょう。そのため、公的保障が充実している会社員や公務員であっても、収入減少に備えておく必要があります。

自営業・フリーランスの保障 

自営業者の場合、有給休暇や傷病手当金といった制度がないため、働けなくなるとすぐに大幅な減収が発生する可能性があります。公的保障として頼りになるのは、「障害年金」だけです。病気やケガの初診日から16カ月経過したときに障害等級1級や2級に該当した場合は、「障害基礎年金」を受け取ることができます。もらえる金額は障害の重さや子供の人数などにより異なりますが、年間でおよそ80万円~150万円といった金額が目安となります。


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                                                                                                                                                      資料:執筆者作成


自営業の場合は公的保障があまり用意されていないため、会社員や公務員の方に比べると、働けなくなった時の収入減に備えておく必要性がより高いと言えます。

傷病手当金をもらう人はどのくらい?どんな人が備えておくべき?

そもそも、働けなくなる人はどのくらいいるのでしょうか?傷病手当金の支給件数をもとに目安を確認してみましょう。

0.6%の人が傷病手当金を受け取っている 

傷病手当金の支給件数は、下の表の通り、健康保険に加入している被保険者1,000人当たり平均6.23件となっています。つまり、割合でいうと約0.6%の人がケガや病気で働けなくて収入が減ったということです。

参考までに、死亡率と比べてみましょう。例えば30歳男性の死亡率は、0.05%です。50歳男性でも0.2%と、傷病手当金の支給割合に比べると低い数字となっています。つまり、働き盛りの時期に亡くなる可能性よりも、働けなくて傷病手当金を受け取る可能性のほうが高いことがわかります。

<傷病手当金の支給割合と年齢別の死亡率の比較>

傷病手当金の支給割合

年齢別の死亡率

被保険者千人当たり平均6.23
(約0.623%)

30歳:男性0.052%、女性0.03
50歳:男性0.242%、女性0.142

資料:全国健康保険協会の「現金給付受給者状況調査報告(令和3年度)」および厚生労働省「簡易生命表(令和3年)」をもとに作成


傷病手当金を受け取る原因となった傷病としては、精神などの障害が最も多く、次いでがんや、循環器系の疾患などが挙げられています。自分が病気やケガをしないですむかどうかは、予想できることではありません。あまり想像はしたくないものですが、急な病気などで働けなくなる可能性は、誰にでもあるということです。そのため、現役世代はみな働けない時のリスクに備えておくことが大切です。

住宅ローンがある人や扶養家族がいる人は特に注意!

働けない時の備えが特に必要なのは、住宅ローンの支払いがある人や、子供や配偶者を扶養している人です。
なぜなら、働けないことで収入が減った場合でも、加入している団体信用生命保険で働けない時に役立つ保障がついていない限り、住宅ローンの支払いは減らないからです。また、家族の生活費や子供の教育費を大幅に節約することは、なかなか難しいものです。ケガや病気で医療費の支出が増えている中では、なおさらでしょう。

このような人は、いざというときに備えて、特に早めに、働けなくなった時への備え方を考えておきましょう。

「貯金」や「民間保険」で備えよう

具体的な備え方としては、まずシンプルな方法として「貯金」が挙げられます。まとまった貯金があれば、急な病気やケガで働けなくなったときでも、あわてずに対応することができます。住宅ローンなどで必須となる支出が多い人ほど、意識して緊急時に使える貯金を多めに確保しておきましょう。

ただ、長期療養が必要となる可能性を考えると、貯金だけでは十分とは言えません。公的保障や貯金だけでは不足する分について、少額の保険料で万一時には大きな保障を得られる「民間保険」で備えることを考えましょう。

収入減少を保障する「就業不能保険」とは?

就業不能保険とは、病気やケガで働けない時の収入減少に備える保険です。まとまったお金が一度に受け取れる一時金形式や、毎月一定額がもらえる年金形式など、商品ごとで定められた形で給付金を受け取れます。

就業不能保険の名称や保障内容はさまざま

働けない時の収入減少をサポートする保険は、実にいろいろな名称で販売されています。生命保険会社が販売するものは「就業不能保険」と言われるものが多く、損害保険会社が販売するものは「所得補償保険」といいます。
また、死亡保険である収入保障保険の特約として、「就業不能保障特約」や「特定疾病保障特約」などで働けない時の収入減少に備えることもできます。収入保障保険は、就業不能保険と名称が似ていますが、死亡時に遺族の生活費を補償する保険です。

収入保障保険に就業不能保障特約などを付けることで、死亡時だけでなく、働けない時から死亡まで、幅広いリスクに備えられます。もし死亡保障が不要な場合は、死亡保障を外す特約を付けることで、就業不能だけを保障する収入保障保険もあります。

就業不能保険はどんなときに給付金がもらえるの?

就業不能保険は、商品によって給付金がもらえる条件が異なります。具体的には、次のような例が挙げられます。 

就業不能保険の給付金が支給される時の例
・病気やケガで長期間入院をしている時
・医師の指示に従って、在宅療養をしている時・障害等級や介護保険で定められた等級に該当した時
・保険会社が定める所定の障害状態、介護が必要な状態になった時
・特定の疾病(がんを含む三大疾病など)により保険会社が定める所定の状態になった時 

また、給付金を受け取れる期間も、商品によって異なります。例えば、就業不能の状態から回復するまでの一定期間だけ受け取れる商品もあれば、就業不能の状態から回復しても、保険期間が終わるまでずっと受け取れるものなどがあります。 

就業不能保障保険は商品によって保障内容や支給条件が大きく異なるため、保障内容などをよく確認しながら、自分が備えたい内容に合わせて選ぶことが大切です。

働き方に合わせて保険を活用しよう

前述したとおり、有給休暇や傷病手当金がある会社員と、傷病手当金も障害厚生年金もない自営業者では、働けない時に受けられる公的保障が大きく異なります。自分の働き方に合わせて、保険商品や保障内容を選びましょう。

会社員であれば「長期間働けない時に備える保障」を中心に、自営業者であれば「短期間働けない時に役立つ保障と、長期間の就業不能に備える保障の両方」を検討するのがおすすめです。 

これからは、65歳まで定年が延長されるなど、長い期間を働き続ける時代がやってきそうです。もしも想定外の病気やケガで仕事を長期間休むことになれば、今の生活を続けられなくなる可能性があります。自身の公的保障を知りつつ、貯金や民間保険を活用してしっかり備えておきましょう。

  • この記事の情報は2023年7月3日時点
プロフィール

ファイナンシャル・プランナー(AFPⓇ)。FP事務所マネセラ代表。(https://manesera.com/

張替 愛(はりかえ あい)

「ひとつひとつの家庭にとっての最善策」を探すことを大切に、金融商品を販売せずに、年間100回近く家計相談を行う。専門分野は教育費・住宅購入・資産運用・ママのキャリアなど。コラム執筆や監修、オンラインマネー講座などでも活躍。2児の母でもある。
著書『~共働き800万円以下の夫婦でもハッピーライフ~プチ贅沢を楽しみながらムリなく資産を増やす』(ビジネス教育出版社)

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