お役立ちコラム

生命保険の保険金額は300万円で足りる?年代別の平均データをもとに解説

# FP監修
# 保険の基礎知識
# 保障内容

公開日:2024年12月19日

pixta_90078959_S

生命保険はもしものときに遺された家族を経済的に守ってくれるものですが、いったいどのくらいの保険金額があればよいのでしょうか?300万円あれば足りるでしょうか?世帯当たりの平均的な保険金額はおよそ2,000万円というデータもありますが、自分や家族の状況によって必要な保険金額は実は大きく異なります。この記事では自分に必要な保険金額の考え方を解説します。

生命保険の保険金額は300万円で足りる?

生命保険は、自分や家族に万が一のことが起こった時に遺された人の生活を守るために加入するものです。ですから保険金額は、現在の貯蓄額や経済的に支えている人の数、年齢、その人が働いているかどうか、子どもであれば叶えたい進学コース、現在の住居が賃貸か持家かなどによって大きく異なります。また、公的な死亡保障制度も、自営業の場合と会社員・公務員の場合とでは異なるため、働き方によって自分自身で備える生命保険の必要額も変わります。

そのため、誰にとっても保険金額は300万円で足りる、と結論付けることはできません。シングルの人など経済的に支えている人がいない場合は、自分に万が一のことがあったら、お葬式代と遺品整理の費用くらいがあればよいと考えれば保険金額300万円で十分なのかも知れません。一方、まだ幼い子どもが複数人いて、妻は働いていないなどのケースでは300万円では足りない可能性があるでしょう。

世帯あたりの平均保険金額

参考に、世帯当たりの平均的な保険金額をみてみましょう。
生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」によれば、保険金額(普通死亡保険金額)の世帯あたりの平均は、2,027万円となっています。さらに保険金額の分布では、5001,000万円(11.0%)、3,0005,000万円(10.7%)、1,0001,500万円(10.6 %)とバラつきがあることが見て取れます。

<世帯の普通死亡保険金額(全生保)>
028_1
資料:生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」よりネオファースト生命作成

年代別の平均保険金額

世帯あたりの保険金額がバラつく原因はいくつか考えられますが、その1つは世帯主の年齢かもしれません。世帯主の年齢別の平均保険金額を見てみると、保険金額は世帯主の年齢とともに上昇し40代後半で2,980万円とピークを迎えます。その後は年齢とともに減少し続けています。結婚や出産などで家族が増えるにしたがって必要な保険金額が増え、その後子どもの独立などで保険金額が減っていくためにこのような形になっていると考えることができるでしょう。

<世帯の普通死亡保険金額(全生保・世帯主年齢別)>

2021(令和3)年
全体 2,027
29歳以下 1,754
30~34歳 2,516
35~39歳 2,525
40~44歳 2,714
45~49歳 2,980
50~54歳 2,296
55~59歳 2,312
60~64歳 2,033
65~69歳 1,478
70~74歳 1,460
75~79歳 1,058
80~84歳 876
85~89歳 1,104
90歳以上 684

資料:生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」よりネオファースト生命作成

生命保険で必要な保険金額を計算する方法

家族構成や働き方など状況はさまざまですから、必要な保険金額は自分に合わせて計算してみることをおすすめします。必要な保険金額は、「死亡後の支出」と、「死亡後の収入+現在の貯蓄」の差として算出することができます(下図参照)。順番にみていきましょう。

<必要な保険金額の考え方>
028_2
資料:執筆者作成

①遺された家族の生活費

死亡後の支出には、遺された家族の生活費とそれ以外、例えば子どもの教育費や住居費などがあります。
遺された家族の生活費は、現在の生活費から考えることができます。1人家族が減るので、金額としては現在の70%~80%が目安になるでしょう。子どもがいる場合は、将来独立してさらに生活費が減る可能性があるのでその時期以降は、現在の50%~60%を目安にするとよいでしょう。

②生活費以外の必要な費用

生活費以外には、子どもの教育費や住居費、葬儀などの費用があります。教育費は想定する進学コースによって異なりますが、目安としては下記の通りです。

<進学コース別教育費の目安>

公立コース: 小学校~大学まで公立 800万円
私立コース: 大学から私立へ 約1,200万円
私立コース: 高校から私立へ 約1,300万円
私立コース: 中学から私立へ 約1,600万円
私立コース: 小学校から私立へ 約2,400万円

プラチナ・コンシェルジュ試算

住居費については、賃貸か持家かによって区別します。賃貸の場合は現在のまま住み続けるか、転居の可能性があるかなど考慮して賃料を計算します。持家の場合は亡くなった人がローンを利用して団体信用生命保険に加入しているならローンの返済はありません。ただし、メンテナンス費用(マンションの管理費や修繕積立金等も)や税金、リフォームの費用、は見込んでおく必要があります。
葬儀などの費用は、規模により大きく異なりますが平均的には118.5万円ほど(鎌倉新書「第6回お葬式に関する全国調査(2024年)」) です。

③収入の見込み額

死亡後の収入には、公的な保障である遺族年金、退職金、遺された配偶者の労働収入、児童手当、加入している場合は学資保険の満期金などがあります。とくに経済的な柱となる遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があり、「遺族基礎年金」は、死亡した人の配偶者(子供がいる配偶者に限られる)または子供が受け取るお金で、「遺族厚生年金」は、会社員など厚生年金の被保険者が死亡した場合に、その配偶者、子ども、父母などが受け取れるお金です。

遺族基礎年金は子どものいる配偶者の場合、以下の通りです。

遺族基礎年金(年額)2024年度
子供1人の場合 816,000円+234,800円=1,050,800円
子供2人の場合 816,000円+469,600円=1,285,600円
子供3人の場合 816,000円+547,900円=1,363,900円


遺族厚生年金は、死亡した人が厚生年金に加入していた期間や収入に応じた金額になります。また、一定の条件を満たす妻は40歳から65歳まで「中高齢の寡婦加算」として年額612,000円を受け取ります。 

退職金は勤務年数などによって金額が異なります。配偶者の労働収入は、年収や期間を想定して見込み額を出します。児童手当は現行制度では、3歳まで月額15,000*、以降高校卒業年度まで10,000*ですので、総額にすると一人当たり約240万円となります。
*第一子、第二子の場合。第三子以降は誕生から高校卒業年度まで30,000円


028_3
資料:執筆者作成

④必要な保険金額を計算する

ここまでみてきた死亡後の支出と収入をそれぞれ合計して、支出の合計と収入+現在の貯蓄の合計額を比べます。このとき支出の方が大きい場合はその差額が必要な保険金額になります。 

<必要な保険金額の計算例> 
A家(下記)の経済的な柱である夫にもしものことがあったときの必要保障額
妻100歳まで、約4,000万円 

夫:年齢37歳、会社員、これまでの平均的な年収約500万円
妻:年齢37歳、専業主婦
子ども:年齢7
住まい:持ち家(団体信用生命保険に加入)

028_4

(試算の前提)
・2024年度の年金額で試算。
・公的年金額は遺族基礎年金と遺族厚生年金、老齢基礎年金を合わせた額。
・生命保険文化センター「公的な遺族年金の仕組みについて知りたい」を基に試算。
・妻の労働収入は年100万円×60歳まで。
・収入にかかる税や社会保険料等は考慮せず。
・生活費は年240万円×子ども独立まで、180万円×子ども独立から妻100歳まで。
・居住費は住宅ローンを除く維持管理の費用として。
・子どもの教育費は、進学コース高校まで公立、大学は私立として試算。

生命保険の保険金額を設定するポイント

自分や家族の状況を考慮しながら計算してみると、本当に必要な保険金額がわかります。ですが、計算した保険金額が高額であったり、しばらくすると自分や家族の状況が変わってしまったりすることもあるので、保険金額を設定するときのポイントをご紹介します。

無理のない保険料にする

必要な保険金額を計算してみると高額になることがありますが、基本的には保険金額が大きいほど保険料も高くなります。保険料が高すぎで、現在の家計を圧迫してしまう場合は、必要な保険金額を見直してみましょう。生活費を少し小さくする、遺された配偶者が長く働く、両親と同居するなどできれば、必要な保険金額を下げられるかもしれません。

保険金額を定期的に見直す

現在の年齢が若いほど、未来を想定しきれない、想定していても変わってしまう可能性は高くなります。ですから働き方が変わった、家族が増えた、制度が変わったなどのタイミングで見直しをして、その時点の自分や家族に相応しい形にしていくようにしましょう。自分で何度も計算し直すのが面倒であれば、保険会社の問い合わせ窓口を活用するとよいでしょう。

終身保険や定期保険を組み合わせる

死亡時に備えるための保険商品としては、終身保険や定期保険があります。終身保険は解約しない限り、一生涯の死亡保障を得られ、定期保険は「〇歳まで」や「〇年間」などとあらかじめ決めた期間の死亡保障が得られます。
同じ保険金額であれば、期間を限定している分、定期保険の方が保険料は安くなります。
子どもが成長して独立する、配偶者が年を重ねるにつれて残りの時間が短くなるなど、必要な保険金額は未来に向けてだんだん小さくなっていきます。大きな保険金額が現在のままずっと必要なわけではないので、例えば必要な保険金額の一部は葬儀代と考えて終身保険に、残りを定期保険10年と20年に分けるなどして保険金額が階段状に下がるように組み合わせることも可能です。

<終身保険と定期保険の組み合わせイメージ>
028_5

また、時間の経過とともに受け取る保険金額(総額)が自動的に減っていく「収入保障保険」を組み合わせるのも1つの方法です。

まとめ

ここまで見てきたように、生命保険の保険金額が300万円で足りるかどうか、答えはその人と家族の状況によって異なります。世帯の平均的な保険金額はおよそ2,000万円ですが、自分や家族に万が一のことが起こった時に遺された人の生活を守るために、本当に必要な保険金額を自分の状況を考慮して計算してみることが大切です。

保険金額が大きくなると、その分保険料も高くなります。備えは大切ですが、保険料が家計を圧迫することにならないよう、保険料を抑えることができる定期保険や収入保障保険を取り入れるとよいでしょう。



  • ※この記事の情報は2024年11月時点
プロフィール

ファイナンシャル・プランナー

國場弥生(くにばやよい)

(株)プラチナ・コンシェルジュ取締役。証券会社勤務後にFPとして独立し、個人相談や雑誌・Web執筆を行っている。All Aboutマネーガイドも務めており、著書に「誰も教えてくれない一生お金に困らないための本 」(エクスナレッジムック)などがある。

おすすめのコラム