生命保険の保険金は減額できる?メリット・デメリットを解説
公開日:2025年1月6日
ライフスタイルの変化で、支出が増えたり収入が減ったりすると、「保険料を減らしたい」と考える人も多いのではないでしょうか。生命保険を解約すれば保険料の支払いが不要になり、家計の負担を減らすことができます。しかし、万一のときに十分な保険金を受け取れなくなる事態は避けたいものです。保険料を抑えつつも、必要な保障はできるだけ残しておきたい。そんなときに役立つのが、「保険金の減額」です。保険を解約しなくても、死亡時にもらえる保険金額を減額すれば、保険料の負担を減らすことができます。
そこで、本記事では、生命保険の保険金額を減額する適切なタイミングや、メリットとデメリットを解説するとともに、保険金額の減額以外で保険料の負担を抑える方法を紹介します。
生命保険の保険金は減額できる?
一般的に、生命保険は、いつでも好きなタイミングで保険金額を減額できます。生命保険の減額とは、契約中の保険の保険金額を下げることをいいます。「保険の一部を解約する」と捉えるとわかりやすいでしょう。保険を全部解約するわけではないため、一定の保障はそのまま残せる点がメリットです。
何よりも嬉しいのは、保険金額を減らすことで、支払う保険料も減り、負担を軽減できることでしょう。例えば、保険金額を半分に減額すれば、保険料も半分近くに減る可能性が高いといったイメージです。ちなみに、契約中の生命保険に付加されている「特約」だけを解約して、保険料の負担を減らす方法もあります。
<生命保険の保険金を減額した場合のイメージ>
資料:執筆者作成
ただし、生命保険会社によっては最低保険金額を設定していることがあるため、希望した通りの金額まで減額できないこともあります。契約中の保険が実際に減額可能かどうかは、保険会社に問い合わせて確認しましょう。
生命保険の減額を考えるタイミング
生命保険の減額は、保険料を軽減したいときや、ライフスタイルの変化によって必要な保障が減ったタイミングで行うのがおすすめです。具体的には、次のようなときが挙げられます。
家計が苦しくなったとき
生命保険に加入したときは無理なく支払える保険料に設定していたとしても、家計の状況が変わり、保険料が家計を圧迫する状況になったら要注意です。家計が苦しいときは、日々の生活費や緊急時に備えるお金の確保を優先させることが大切になります。生命保険の保険金を減額するなどして、保険料を抑えることを検討しましょう。
住宅を購入したとき
住宅ローンを組んで住宅を購入すると、一般的には「団体信用生命保険(団信)」に加入します。団信とは、住宅ローンの契約者が死亡または高度障害状態になったときに、住宅ローンの残高分の保険金が支払われる保険です。そして、その保険金によって住宅ローンの残債が返済される仕組みになっています。団信は契約中の生命保険と保障内容が重複する可能性が高いため、生命保険の減額を検討する良いタイミングとなります。
住宅を購入する前は、万一のことがあっても遺族が安心して家賃を支払い続けられるように、高額の死亡保険に加入している人が多いでしょう。住宅を購入して団信に加入した後なら、契約者に何かあっても家族に住宅ローン完済済みの住宅を残せます。また、ペアローンで住宅を買った場合も、1人分のローンがなくなるため、必要な保障額は住宅購入前より減ることが多いです。そのため、住宅を購入したタイミングでは、あらためて団信を考慮した必要保障額を確認しましょう。そして、適切な保険金額まで減額し、保険料の負担を減らすのがおすすめです。
子どもが独立したとき
子どもを養っている時期は、親に万一のことがあっても遺族が今までの生活を続けることや、子どもが十分な教育を受けることができるように、まとまった金額の死亡保障を持っておくと安心です。しかし、子どもが独立した後は、手厚い死亡保障を持つ必要はなくなります。パートナーに遺したい生活費や、葬儀・お墓用の費用など、残しておきたい死亡保険金の金額をあらためて確認し、必要ない保障は減らすようにしましょう。
子どもの独立後は、養育費や教育費の負担がなくなるため、老後に向けて貯蓄を増やす絶好のチャンスです。保険を減額することで保険料が抑えられたら、貯蓄や投資に回して老後資金を蓄えるようにしましょう。
生命保険を減額するメリット
生命保険の保険金を減額すると、次のようなメリットが得られます。
保険料の負担を抑えられる
生命保険の保険金を減額する形であれば、保険契約自体を解約することなく、保険料の負担を抑えることができます。万一に備えて一定の保障を残しておくことができるため、手厚い保障が不要となったときや、保険料の支払いが家計の負担になっているときなどに検討すると良いでしょう。
なかには、「とりあえず保険を一度解約して、必要な分だけ別の保険に新しく加入し直せばいいのでは?」と、思う人もいるかもしれません。たしかに、保険期間を延ばしたい場合など、新しく保険に入り直したほうが良いケースもあります。しかし、生命保険の保険料は、加入時の年齢によって決まります。年齢が上がるほど保険料も上がる傾向があるため、保険に入り直す方法だと、減額をしても保険料があまり安くならない可能性が高いのです。そのため、まずは、契約中の保険の減額を検討してみるのがおすすめです。
解約返戻金を受け取れる可能性がある
生命保険の保険金の減額は、一部の保険を解約したことと同様であると見なされます。そのため、減額部分に対応する解約返戻金があれば、受け取ることができます。家計が苦しい状況であれば、解約返戻金を生活費に回すことができるので嬉しいですね。家計に余裕があるなら、将来必要となる教育資金や老後資金として、解約返戻金を投資に回すのも選択肢のひとつとなるでしょう。
ただし、保険を契約してから間もない時期に減額の手続きをした場合は、受け取れる解約返戻金がないこともあります。解約返戻金が出たとしても、高額な保険料を支払っていない限り、ごくわずかであることが多いです。
生命保険を減額するデメリット
生命保険の減額にはデメリットもあります。次の点に注意しておきましょう。
保障が不足する可能性がある
生命保険の保険金を減額すると、いざというときに受け取れる保険金額が減ります。つまり、保険料を抑えることを重視して減額をしすぎると、十分な保険金額を受け取れなくて困る可能性があるため、注意が必要なのです。
そのため、保険を減額する際は、今後必要となる保障額をしっかり確認してから減額しましょう。必要保障額を確認する際は、遺族年金などの公的保障でもらえる金額や、弔慰金や死亡退職金などの勤務先からもらえる金額も考慮できると理想的です。また、いざというときにパートナーが働いて家計を支えられる場合や、家賃が安いエリアや実家などに引っ越すことで住居費を抑えられそうな場合も、必要な保障額を低く見積もることができます。最終的には保険料負担とのバランスを見て、どこまで手厚い保障を準備しておくかを考えると良いでしょう。
死亡保険金をできるだけ減らしたくない場合は、契約中の保険に付加されている特約を確認し、優先順位の低い保障を外すことを検討すると良いでしょう。
割引制度が適用できなくなる可能性がある
保険会社によっては、契約する保険の保険金が一定額以上の高い金額になると保険料が割引となる「高額割引制度」があります。高額割引制度は、保険金の減額によって一定額を下回ると適用されなくなることがあるので注意が必要です。
割引の対象となる商品や割引率は保険会社によって異なるため、詳細は契約中の保険会社に確認しましょう。
増額するのが難しい
生命保険は、一度保険金を減額すると、その後再び同じ条件で増額することが基本的にはできません。家計状況が改善したからといった理由で、再び保険金額を増やしたいと思った際には、増額部分の追加契約や特約の中途付加を新たに申し込む必要があります。
しかし、生命保険の加入や増額が認められるためには、健康状態の告知を行って、保険会社の審査を通る必要があります。つまり、増額を申し込む際の健康状態によっては契約できない可能性があるのです。また、増額する部分の保険料は、増額時の年齢や保険料率で計算されるため、初回契約時よりも年齢が上がっていればその分保険料が高くなることが予想されます。そのため、あらかじめ保険金の過剰な減額は避けるようにしましょう。
生命保険を減額する手続きの流れ
生命保険の減額をするときは、契約中の保険会社で手続きを行います。以下の流れで進めましょう。
<生命保険の減額手続きの流れ>
1.保険証券を手元に用意する
2.減額したい旨を保険会社のコールセンターや営業担当者に連絡する
3.保険会社から手続き書類を送付してもらう
4.書類に必要事項を記入して保険会社に返送する
5.保険会社から手続き完了を知らせる書類を受け取る
まだ減額を検討中の段階であれば、まずは保険証券を手元に準備するとともに、あらかじめ聞きたいことをメモしておき、保険会社のコールセンターなどに問い合わせましょう。ご自身の契約内容の場合、「そもそも減額が可能かどうか」「減額できる場合、いくらまで可能か」「減額後の保険料はいくらになるのか」といった内容を聞くのがおすすめです。
なお、手続き方法の詳細は保険会社によって異なります。保険会社のホームページで確認したり、コールセンターに電話をしたりして進めると良いでしょう。
減額以外で保険料の負担を抑える方法
保険金額を減額する以外で保険料の負担を抑える方法としては、「払済保険」や「延長保険」への変更があります。払済保険や延長保険へ変更ができるのは、終身保険や養老保険などの解約返戻金がある保険です。契約中の保険が解約返戻金の出る保険であれば、減額する場合と比べてから、ご自身に合っている方法を選ぶと良いでしょう。
払済保険に変更する
払済保険とは、今後の保険料の払い込みを中止し、基本的には保険期間を変えずに、その時点の解約払戻金をもとに保障を継続する方法です。払済保険に変更すると万一の際にもらえる保険金額が減ってしまうため、保障目的というよりは、貯蓄目的で加入していた保険の保険料負担を減らしたいときなどに役立ちます。
<払済保険に変更した場合のイメージ>
資料:執筆者作成
払済保険に変更すると生じるデメリットは、原則として特約が消えてしまう点です。必要な医療保障やがん保障などを特約で付加していた場合は特に注意してください。また、解約返戻金の金額が少ない場合や、保険商品の種類によっては、払済保険への変更に対応していないことがあります。契約中の保険が払済保険へ変更できるかどうかや、変更後の保障内容を知りたいときは、保険会社に問い合わせましょう。
延長保険に変更する
延長保険とは、今後の保険料の払い込みを中止し、基本的には保険金額を変えずに、その時点の解約払戻金をもとに保障を継続する方法です。変更前の保険金額をキープできる代わりに、保険期間は短くなることが多いです。毎月の保険料の支払いが難しい状況でも、必要な保障額はしっかり維持しておきたい人に向いています。
<延長保険に変更した場合のイメージ>
資料:執筆者作成
延長保険に変更する際のデメリットは、解約払戻金の金額次第では、保障を維持できる期間が短くなることです。子どもが独立するまでの年数を計算したり、ご自身の保険の場合はどのくらいの保険期間になるのかを確認したりして、延長保険へ変更した後の保障内容や保険期間がご自身の希望と合致しているかを見極めることが重要となります。また、払済保険と同じく、特約部分は消えてしまう点や、解約払戻金の金額や保険商品によっては利用できない点に注意が必要です。
まとめ
家計が苦しくなったときや、生活の変化によって必要な保障が減るときには、保険金を減額することで保険料の負担を抑えることができます。
ただし、保険料を抑えることを重視しすぎると、いざというときに十分な保険金を受け取れなくなるので注意が必要です。一度減額した保険金を増額するのは難しいため、減額する際は慎重に検討してください。
また、保険金を減額する以外にも、保険や特約の解約、払済保険や延長保険への変更という方法でも、保険料の負担は減らすことができます。ご自身の契約状況や今後欲しい保障内容・保障期間によっても、最適な見直し方法は変わります。必要に応じて保険に詳しいFPにも相談しながら、ご自身に合った方法を選ぶようにしましょう。
※この記事の情報は2024年12月時点
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プロフィール
ファイナンシャル・プランナー(AFPⓇ)。FP事務所マネセラ代表。(https://manesera.com/)
張替 愛(はりかえ あい)
「ひとつひとつの家庭にとっての最善策」を探すことを大切に、金融商品を販売せずに、年間100回近く家計相談を行う。専門分野は教育費・住宅購入・資産運用・ママのキャリアなど。コラム執筆や監修、オンラインマネー講座などでも活躍。2児の母でもある。
著書『~共働き800万円以下の夫婦でもハッピーライフ~プチ贅沢を楽しみながらムリなく資産を増やす』(ビジネス教育出版社)